なんやかんやで4月だよ。春だよ。
咲いた桜が雨でだいぶ散ってしまった。
お次は葉桜。
僕はむしろこっちのほうが好きかもしれない。
卒業式のあとも細かい作業に追われていた。
毎日、梱包用の「ぷちぷち」をつぶすような感覚。
そんななか、長年使った研究室を明け渡すときの心境といったら!
今なら、アルタの楽屋を整理するタモさんの気持ちがちょっとわかる。
別れと出会いの季節を楽しもう。
さて、先月のはじめに行った四国の旅行記がまだ終わらない。
めっちゃ心苦しい。
別にもったいぶっているわけではないんだが。
今日からまじめに再開します。
残り数話でフィニッシュを決められる予定。
こんぴらさんをお詣りしたのち、僕は琴参閣という宿に泊まった。
でかくて立派。サービスもとても行き届いている。
入口付近では、結婚披露宴に集まった一族が談笑する姿もみられた。
いい光景である。末永くお幸せに。
チェックインを済ませたのち、係のおねえさんが僕の荷物をぶんどるようにして、
部屋まで案内してくれた。
ちょう力持ち。
エレベーター内の貼り紙を示して、彼女は言った。
「今晩、当館がドラマに出てくるんです。よろしければご覧くださいね!」と 。
一瞬、なんのこっちゃと思ったが、そこに書かれた告知を読んで一切を了解した。
「今夜放送の土曜ワイド劇場、当館が舞台となっております。
『温泉若おかみの殺人推理 四国香川~初夜に殺された瀬戸の花嫁』
ぜひお楽しみください!」
お楽しみくださいも何も、「初夜に殺された瀬戸の花嫁」ですぜ!?
目の玉飛び出るかと思った。
さっき入口にたむろしていた結婚式軍団は、どんな顔してこれを見つめたんだろう。
縁起が良いのか悪いのか、まったくわからない。
こんな奇跡的なタイミングで宿泊できたことをうれしく思う。
夕食は食事処に集められて、その敷地内の個室でいちゃいちゃするタイプ。
や、別にいちゃいちゃしてはいないんだが、配膳が的確で美味しゅうございました。
稲中に出てくる面白い顔の女子をきれいにしたような優しいおねえさんが
大盛りご飯をよそってくださった。
ありがたや、ありがたや。
でもなんで大盛り?
僕、そんなに大盛り顔をしてるかなぁ。心外です。
たらふく飲み食いして部屋でごろごろしているうちに、件のドラマが始まった。
始まる直前に館内放送が流れたくらいだから、大イベントである。
きっと、宿泊客のほとんどがテレビに釘付けだったことだろう。
その光景を想像すると……面白いな。
主演は東ちづると羽場裕一。
ナイス・キャスティング。
非の打ちどころのない土曜ワイド劇場だ。
そんな感じで野次を飛ばしているうちに、さっき料理を運んでくれた
おねえさんが朝礼シーンで画面に映り込んだ。
きわめてナチュラルな演技……!
なんなんだろう。この、ちょっとうれしい感覚は。
日常と非日常の転倒ってやつか。よくわかりませんが。
ドラマが始まって30分が経過。
花嫁が後頭部を石壁に打ちつけられた状態で発見されたところで、僕もあの世へ。
いや、眠りの世界へ。
その後、何か急展開はあったんだろうか。
結局、犯人は誰だったんだろうか。
真相は闇に葬られたまま……。
エキストラの琴参閣従業員のしわざであってほしい!