志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

3月の終わりに観た映画

 3月の終わり、少し長めの帰省を敢行した。こんなに実家でゆっくりしたのは何年ぶりだろうか。美味しいものを食べ、よく眠り、これまでの出来事を語り合う。生の横溢。つまりは、春。僕はつくづく家族や友人に支えられている。一瞬でも感謝を忘れると、地獄に落ちると思う。

 大阪開催のLOUD PARKが目的ではあったのだが、スキマ時間に未鑑賞の映画を一気見できたのがよかった。全作品、信頼する複数の友からのお薦めだ。僕には「これは良いよ!」と教えてもらったものを必ず観たり聴いたりする習性がある。たとえ何年かかっても鑑賞の約束は果たすので、皆さま奮ってお薦めください。

 

※ここからは『アメリカン・ユートピア』『朝が来る』『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』の話になります。ネタバレには配慮して書いたつもりですが、見たくない内容が目に留まった場合、薄目で読み進めるなどご対応ください。

 

 まずは『アメリカン・ユートピア』。公開時、周囲がやたらと騒ぐものだから眉唾物だなぁと考えていたが、やはり凄かった。何が凄いって、人間の体の表現力。舞台芸術を映画として記録することの意義がここにあると感じ入った。デイヴィッド・バーンという人のことをあまり知らなくても(むしろ知らないほうが)楽しめる。序盤の独特の間合いをつかめば、あとはユートピアが広がるのみ。知的なユーモアを好む向きも満足することだろう。

 次に観たのは、辻村深月 [原作] ×河瀨直美 [監督]の 『朝が来る』。非常に深刻な内容のため、万人にはお薦めできない。だが、ある瞬間に訪れるカタルシスのためにも、できるだけ多くの人に観てほしい。そんな静かな迫力に打ちのめされたわけである。そもそも原作の大ファンなのだけれど、辻村が描く残酷な現実と慈愛を見事な解釈で映像化した河瀨の手腕。水面がきらきらと光り、桜が風に舞うその一瞬の美をずっと眺めていたくなる。配役も素晴らしく、特に浅田美代子の演技に痺れた。ああいう優しい年配女性、いるもんなぁ。

 ここからは「シン」シリーズだ。あれだけ話題になったにもかかわらず、まだ観ていなかったというポンコツぶり。というか、僕の映画鑑賞の習慣は大学の学部時代がピークだったように思う。20代後半は研究のために能・狂言・歌舞伎などを追いかけることに必死で、そこにライヴハウス通いが加わったものだから、スクリーンと対峙する時間など捻り出せるわけもなかった。……なんだか話が逸れてしまった。

 公開順に観るのがよかろうと思い、1本目は『シン・ゴジラ』を選択。この作品のおかげで「シン」の文法のようなものを体得した。地上波初登場時にTwitterのTLが盛り上がっていたが、なるほど、同時刻にみんなでワイワイ楽しむのが相応しい。僕はゴジラの造形(どの形態も!)にいまいちノレなかったものの、石原さとみの誇張イングリッシュに感動を覚えた観客の一人である。その他、政府筋の人間模様にもグイグイ引き込まれた。単純に迷惑だよなぁ、あんなに凶暴でデカいものが暴れたら。

 この直後に観た『シン・ウルトラマン』のほうが僕の性に合っていたようだ。子供の頃に再放送で鑑賞した初代ウルトラマンの興奮が蘇る。と同時に、2020年代ならではの視覚的な魅せ方が備わっているように感じた。映画の尺の中にテンポよく印象的な敵(という呼び方が正しいかはわからんが)を登場させている点もうれしい。こちらもキャスティングが絶妙で長澤まさみ長澤まさみしていた。ここまでの全作品をアマプラで鑑賞できたのは幸い。非常に便利な時代になったものです。

 さて、こんな流れで観た『シン・仮面ライダー』なのだが、ここ数日の映画熱はすべてこれを観るための序章に過ぎなかったのではないか。僕は小学校低学年の頃にリアルタイムでBLACKとRXを楽しんだ世代で、平成ライダーはおろか、古典的なライダーに関しても基礎の基礎ぐらいの知識しかない。そんな自分でも「これは近年のベスト映画やで!」と鼻息を荒くするくらいには刺激を受ける内容だった。アクション、ストーリー、音楽、カメラワークなど、どこを取っても超エンターテインメント。日本に良いところがあるとすれば、こういう情緒だよなぁと変な納得の仕方をしてしまった。いろいろ書きたいところだが、これから観る人の楽しみを奪ってはいけないので、ひと言ふた言に留めておこう。浜辺美波の圧倒的造形美、そして西野七瀬のイイ味。予告編を観てときめいた人は是非劇場に足を運んでほしい。赤いマフラーを巻きたくなるし、バイクが欲しくなること請け合いだ。

 

 公開から時間が経つと、周囲の評価などを気にせず、いい塩梅に作品に没入できる。また、事前に情報を仕入れ過ぎないことも大事なのかもしれない。意外なキャストが思わぬところに登場していることをスタッフロールで知る。これもまた映画の快楽じゃないですか。

 今よりもっと若造だった頃、僕には集中的に映画を観ていた時間があった。あれから月日は流れ、怠慢だけが蓄積されていった。やはり、好きなものから離れることはできない。40代前半だからこその映画との向き合い方だって、可能なはずだ。言い忘れたけれども、「シン」3作は竹野内豊のカッコよさが肝のような気がしてきたぞ。ああいうふうに歳を重ねたいものです。そもそものヴィジュアル的基盤が違いすぎますがね。