志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

僕の好きな春の歌

 家の周囲は葉桜が増えてきた。満開の桜も美しいものだが、ピンクに緑の混ざったこの趣きにもうっとりする。真新しい制服とカバンの子たちが緊張の面持ちで移動する姿もよい。春は別れと出会いの季節。何回経験しても、この時期特有の甘酸っぱさからは逃れることができない。自分は今でも青春真っ盛りということなのだろうか。

 それはさておき、「春を迎えると頭の中で勝手に鳴りだす曲」が僕にはいくつかある。季節の変わり目というのは、どうしても落ち着かないもの。ましてや、人の出入りの激しい春先は、己を鼓舞したり癒したりといった調整が必要になってくる。こう見えて、わたしゃ「緊張しぃ」なのだ。

 先日、CDTVの特番をチラチラ眺めていたら、頭がぽわぁーっとしてしまった。90年代後半から00年代序盤にかけてのナンバーが自分の血肉となっているのだと再確認。良質のメロディ、鮮やかな色彩、豊かな詩情……このあたりが僕にとってのキーワードとなりそうだ。春を主題にした愛聴曲は山ほどあるのだけれど、今の自分の気分に素直になってみると、こんなセレクションになる。厳選の3曲。

 

松たか子明日、春が来たら

 1997年3月リリースの松たか子のデビュー・シングル。ということは、高1の春休みから高2の始まりにかけて、よく聴いていたのか。自分史上、最もパッとしない時期の幕開けを飾った歌ということになる。当時、旬も旬のトップ女優だった松たか子。その彼女が歌を出すなんて! しかも、その歌が上手いだなんて! 「この人はお芝居から何から、なんでもできるんだな」と高校生らしい素直な感想を抱いた楽曲だ。今聴いても、松たか子の伸びやかな声と表現力の高さに感心する。淡い恋心とは無縁の男子校生活を彩った、瑞々しい名曲です。

 

Hysteric Blue「春~spring~」

 1999年1月リリースの、非常に思い入れが強い歌。センター試験に失敗し、浪人が決定した頃の楽曲である。僕は98年の10月から1年くらいの記憶が著しく欠落している。というのも、最愛の祖母が倒れ、介護をはじめとする残酷な現実に生まれて初めて向き合ったのがこの時期だからだ。目の前は真っ暗、神も仏もあるもんかと沈む病院の帰り道、ファミマで流れていたのがこの曲というわけだ。

 キラキラのポップ・ミュージックとはまさにこのことを言うのだと思う。愛すべき旋律に感受性豊かな歌心。「こういう夢ならもう一度逢いたい 春が来るたびあなたに逢える」今でもこの一節を聴くと、自然と涙が溢れてしまう。僕の一番辛かった時期を支えてくれた楽曲のひとつです。

 とにかく、同い年の人がこんなにも素晴らしい曲を世に放っていることに勇気づけられたのだった。けっこう長い間、ヴォーカルのTamaさんが作った曲だと勘違いしていたのだが、作詞・作曲はドラムのたくやさん。現在、楠瀬拓哉さんとして多方面で活躍する彼には、清春さんのライヴ現場などで何度も顔を合わせることとなった。人生、何が起こるかわからない。

 

AEROSMITH「Jaded」

 春をテーマにした曲なのかと問われれば、そんなこともないだろう。本曲を収めたアルバム『JUST PUSH PLAY』が2001年3月発売なので、お許しいただきたい。サビの「My my baby blue」の部分を聴くと、いつでも胸の真ん中あたりがぽや~んと温かくなる。大学生活の1年目が終わり、おおいに調子に乗っていた季節の名曲だ。

 お気に入りの曲とはいえ、AEROSMITHのライヴで観たときはそんなにグッとこなかった。ところが、2017年4月に武道館で味わったスティーヴン・タイラーのソロ公演でのパフォーマンスが絶品で、「ああ、僕はこの曲を愛してるなぁ!」と感じ入ったのである。バンド・メンバーには女性奏者もいて、スティーヴンの華やか極まりない魅力に加えて、春爛漫といった空気が実に心地よかったのを覚えている。直前まで行こうかどうか迷っていたのだが、経験上、そういう逡巡のある公演ほど素晴らしいものになったりするものだ。

 

 その他、SPEED「my graduation」、GLAY「春を愛する人」、スピッツ「春の歌」、いきものがかり「SAKURA」など、挙げだすとキリがありませんね。一時期、「黒歴史」という言葉が流行ったけれども、できればなかったことにしたい過去ほど、時が経てば大きな財産となっていることに思い当たる。失敗したって、いいじゃない。毎日が新生活応援フェアですよ。春の空気をしっかり吸い込んで、明日も豊かに生きよう。