志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

僕と大学【第4回】

 何を隠そう、僕は2023年4月末現在、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(I.W.G.P.)にハマっている。恥ずかしながら、ずーっと観たことがなかったのだ。ディズニープラスに入会したのをいいことに、1日1話と決めて、夜な夜なブクロをパトロールしております。主演・長瀬智也、脚本・宮藤官九郎、チーフ演出・堤幸彦、主題歌・Sads「忘却の空」、その他、豪華キャスト多数! なるほど、今の地上波ではコンプライアンス的にマズい中身なのかもしれないが、そこをなんとかお願いしますと頭を下げたくもなる。当時の空気を生々しく伝えていて、ストーリー展開が刺激的。クスクス笑えるところもいい。

 この主人公たちと同世代だったと思うと妙に感慨深くなる。僕が大学生になってからの作品だよなと思って調べてみたら、2000年4月から6月にかけて、つまり、入学したての頃の放送だった。現実が過剰に充実していて、テレビどころではなかった時期だ。映像といえば、当時住んでいた部屋から徒歩3分ぐらいのところにレンタルビデオ店があったのをいいことに、押さえておくべき古典は2年生ぐらいまでにかなりの数を観た。最低でも週に2、3本。といっても、『タイタニック』とか『ロッキー』ですが。ゴダールタルコフスキーを少々……なんてカッコよく言ってみるのが文系大学生という感じもするけれど、僕は基本的に胸のすくハリウッド映画が好きで、今でもその傾向は続いていると思う。さっき、参考までにmixiのプロフィール欄に挙げていた「好きな映画」を確認してみたが(mixiを開くのも10年ぶりぐらいだ!)、『スターシップ・トゥルーパーズ』やら『ラブ・アクチュアリー』などと書いてあったので、そっと画面を閉じた。ハタチの頃に見聞きしたものは、その後の嗜好を決定づけるとみて間違いはない。

 ようやく、大学2年生の頃のお話だ。やはり、1年生という生き物は、どこか自分を大きく見せようとしているところがある。知的な生意気度の高さにおいて、ICUの1年生ほど厄介なものはないと僕は考えていて、じじつ、多くの学生が無敵かつ無邪気な顔をして歩いていた。僕も例にもれず、広大なキャンパスの四季折々の表情を愛でながら、リベラルアーツの恩恵を享受していたように思う。

ICUは英語ばかりやっている」というのは誤解で、集中的に英語のカリキュラムに取り組むのは1年生いっぱいと2年生の一部の期間のみ。あとは各々の関心分野に進み、自由に羽ばたいてくださいというスタンスだった、今はどうなっているのか知らないが。人文科学科に所属しているものの、さて自分は文学をやりたいのか、哲学に挑みたいのか、はたまた美術を研究したいのか、さっぱりアイデアが湧かなかった。こういうのは時間が経てば解決すると信じて疑わず、どうせなら面白そうな授業に出て単位を埋めていこうと、真面目に大学生していた。この頃はまだ、本の読み方・集め方の基礎すらわかっていない。素直に講義を受けるだけでは何の成長もないよなぁと、ときどき窓の外の芝生を眺めたりしていた。

 この年の6月末に最愛の祖母が亡くなった。たしか、春学期の期末試験の最終日に報せを受けて大阪に帰ったのだ。この辺の出来事は高3の終わりから続く闇の要素が強いため、今回は割愛。いつか自分を見つめ直して筆をとることもあるかもしれない。

 さて、その夏、僕は車の免許を取得している。人の命は有限だ、今できることをベストを尽くして、やる! と一念発起したのだったか、僕は生まれ変わるような気持ちで大阪の祖父母宅の近くの教習所に通い、なんとかミッションを果たした。年相応に大小さまざまな地獄を経験したつもりではいたが、教習所通いほど緊張で押しつぶされそうになる出来事はなかった。よせばいいのに、MTのコースに通ったものだから、実家に車のなかった僕は最初のシミュレーターの段階でちんぷんかんぷん。せめてAT限定にしておけばよかったと今でも後悔している。本当に、ウマが合う教官とそうでない輩との差が激しいものなのだ。人間の相性について、これほど考えさせられる経験はない。なお、僕は免許取得後、一度もハンドルを握ったことのないゴールデン・ペーパードライバーで、他人様の車に乗せてもらってばかりのアンポンタンとして生きている。運転せよと言われても、あなたの命の保証は皆無。AC/DCという偉い人たちも「HIGHWAY TO HELL」と言っている。

 秋学期開始直後の2001年9月11日。武蔵小金井の下宿でボケーッと読書していたら、帰省時に会ったばかりの高校の同級生から電話がかかってきた。そもそも僕は電話嫌いなので、その包囲網(?)をかいくぐって連絡してくるとは、たいした度胸だ。

「ちょっと大変なことになったから、テレビつけてみ?(ニヤニヤ)」うながされるままにニュースステーションをつけたら、飛行機がビルに飛び込む映像が流れた。「な? 大変なことやろ?(ニタニタ)」電話越しにそう言われた僕は思考が停止したまま、なんとも返答できずにいた。この日を境に、なんとなく彼とは疎遠になってしまった。人類史上の重大事件に対して、根本的に考えが違う。こんなときは、深呼吸して、それまでの彼/彼女との関係性を考え直すという勇気も必要だと思った。

 この頃から、「やりたいことをやらないで、何が大学生か」と自問自答するようになる。21歳の僕の心は複雑に燃えていた。そして、ひょんなことがきっかけで軽音サークルに入ることになったのだ。