志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

僕と大学【第6回】

 3年生ともなると、学内外の事情に明るくなり、心理的に余裕が出てくる。充実の季節、と断言できれば素敵なのだろうけれど、よくよく考えてみれば、あの頃の自信は意味不明で恥ずかしい。寝る間も惜しいくらいに、目に飛び込むすべてのものを吸収していたのがこの時期だ。

 前回記したように、これまで生きてきたなかで最大級の勇気を振り絞ったのがメロユニ入部だった。「そりゃまた大袈裟な!」とツッコまれそうだが、いや、本当なのだ。大学院時代を含めて、がっつり活動したのは正味4年ぐらいだったが、この中で出会った先輩・後輩・同級生の誰一人が欠けても、現在の自分は成立しなかったと断言できる。ありがとう。いや、今ここで言うセリフじゃないけれども。

 この時期のことを思い出すととめどなくなるので、ポイントに絞って語ろう。そもそも「メロユニ」って、なんだ? 今はどうだか知らないが、当時はICU唯一のロック系軽音サークルで、いわゆる「うるさい音楽」が好きな人が集まっていた。活動方針は非常にゆるく、コピーバンド主体、まれにオリジナルをやる人が現われるという程度。僕が愛するハードロック/ヘヴィメタルはどちらかといえば日陰者の音楽で、ヴィジュアル系(という概念すらまだ出来立てホヤホヤだった)をコピーしようものなら、「ネタ」とみなされる風潮すらあった。どちらかといえば、パンクやオルタナに寄ったサークルだった。

 ちなみに、姉妹サークルにJFK(Jazz Funk Keystationの略称)があり、こちらはジャズやフュージョンが主体、ということになっているが、実態はお洒落系ポップ・サークルだったと認識している。「どジャズ」をやっている人はほとんど見かけなかった。PAT METHENYとかSTEELY DANが好きな人はここ。EGO-WRAPPIN'、ハナレグミ菊地成孔のファンもここ、といった感じだろうか。メロユニとは音楽性において対極だが、互いの仲は良く、兼部・客演している人が多かった。

 両サークルに共通して言えることなのだが、主として学期の始まりと終わりの年間5、6回、学内の多目的ホールなどでライヴをやるのである。パーマネントなバンドは無きに等しく、イベント開催ごと、たとえばブルーハーツをコピーしたい人が集まってバンドを組む、という流れ。1バンドの持ち時間は15~20分程度。僕にとっては、このいい加減さがなんとも心地よかった。

 楽器を熱心に練習するというよりも、部室でまったく音楽と関係のない話をして、ゲームやってる人の画面を複数人で眺めて、ラーメンやカレーを食べに行くというのが日常的光景だったように思う。意識は低く、居心地は良い。つまりは人間をダメにするサークルのひとつだったのだが、こういう環境に飛び込んだからこそ、「一般的なICUらしさ」から一定の距離を保てたのだと思う。

 このサークルに入ってよかったのは、自分があまり熱心に聴いてこなかったバンドの良さを、友達のライヴ・パフォーマンスを通して発見できるという点だ。ミッシェルやブランキーなどが、まさにそう。toeTHE CARDIGANSなんかも、メロユニでの出会いがなければ、食わず嫌いのままだったかもしれない。正直に告白すれば、筋肉少女帯を初めて聴いたのも友人たちのコピーバンドを通してだった。J-POP、プログレ、アニソンなど、タフな雑食性を身につけられたのはメロユニとJFKのみんなのおかげです。ありがとう(まだ言ってる)。

 ちなみに、ディスクユニオンレコファン(吉祥寺のレンガ館にあった時代!)などの中古CD店に日参するようになったのも、この時期である。文字通り、狂ったようにCDを買い集めては聴きまくっていた。どこにそんな時間があったんだ? というくらいに。20代はじめの体力と行動力は無限だったんだな……。

 2年生の秋に入部して、徐々に周囲との距離を縮め、半年が経っていた。3年生の4月、新入生歓迎ライヴで、僕は生まれて初めてのライヴに臨んだ。しかも、PANTERAのコピーバンドのヴォーカルとして。それまで、あんなスタイルの咆哮をやったことがないにもかかわらず、だ。ここら辺の事情を書くだけでドキュメンタリー番組1本分くらいの分量になりそうなので、すべてを省略! ただ、確実に言えるのは、この日をきっかけに、ステージに立つ快感を覚えたということだ。今まで観ていた立場だったものが、観られる立場になるという逆転現象。僕は全オーディエンスに告げたい。一度でいいから、ステージに立ってみなさい。あの空間を掌握できるのは、選ばれし者のみなんだぞ、と。今思えば、舞台芸術に対する畏怖と敬意が芽生えたのは、あの日歌った(吠えた?)「Mouth For War」「Fucking Hostile」「Cowboys From Hell」があったからこそ。あれ? 「Walk」もやったのかな? まあいいや。とにかく、普段の僕(温厚)とのギャップが凄いセットリストですね。

 その後、6月のDEEP PURPLE(「Highway Star」「Speed King」「Burn」)、夏合宿(これもドラマ多数だが、今は省略)を挟んで、9月のHELLOWEEN(「Where The Rain Grows」「I Want Out」「Eagle Fly Free」)と快調にヴォーカル道を突き進む僕であった。こう書くと、なんだか「『BURRN!』の申し子」みたいな選曲だが、実際にそうだったんだから、仕方がない。

 そして迎える文化祭シーズン。ICUにはBALLという学食で行われる大規模(?)ライヴがあり、GUNS N' ROSES……と今回のお話はここまで。あまりにあの頃の自分が眩しくて、涙目でこの記事を綴りましたとさ。