志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

IRON MAIDEN@ぴあアリーナMMで過去と未来に飛ばされる(後編)

 

tsukunes.hatenablog.com

 1曲目は「Caught Somewhere In Time」だったわけだが、さほど思い入れのないこの楽曲に対しても、周りのオーディエンスが大合唱するものだから、僕も大声で何事かを叫んでいた。いやはや、こうしてじっくり聴くと、実に旨味のある良い曲じゃないか。サビの部分はアクセル・ローズに歌わせたらハマるんじゃないか。そんな失礼なことを考えているうちに、矢継ぎ早のアイアン・メイデン・ショウである。観客に考える暇を与えない、劇的な構成。ステージ背後の「ブレードランナー」的なトチ狂った近未来日本趣味が笑えると同時にカッコいい。この時点ですでに、僕の求める”景気の良さ”を回収した気分になった。豪勢なステージを間近で観たせいもあるのだろうが、自分の心は80年代から90年代にかけての海外のスタジアム公演に飛ばされた気になってしまった。
 今回の来日でも、セットリストは全公演同じだったようだ(ですよね? 合ってますよね?)。どこかの会場でサプライズ曲が披露された、というような話は聞いていない。以前の僕であれば、そういうところに物足りなさを感じたのだが、今回はむしろ爽やかな気分になった。というのも、バンド側の「どの会場でも”これ”をみんなに見せるんだ!」という鋼の意志が感じられたからだ。演出は緻密で、演奏も歌唱もばっちりの高品質。エディの無邪気な登場や変な日本語のネオンサインなど、ツッコミどころは豊富だけれども。
 "THE FUTURE PAST"とはよく言ったもので、往年の異色盤『SOMEWHERE IN TIME』(1986)と最新作『SENJUTSU』(2021)からの楽曲を中心に、ベスト盤に収録されるようなキラーチューンが「ここぞ!」のタイミングで炸裂。バンドの歴史およびオーディエンス一人ひとりの人生を振り返るような気迫を見せつつ、現在進行形の生きざまを示す手法が痛快だ。ここで注目したいのは、

・Aces High
・2 Minutes To Midnight
・Run To The Hills
・Wrathchild
・The Number Of The Beast
・Hallowed Be Thy Name
・Sanctuary
・The Evil That Men Do
・Be Quick Or Be Dead
・Running Free
・Bring Your Daughter... To The Slaughter
・Murders In The Rue Morgue

などの名曲を”やらなかった”ことだ。えーっ、潔すぎやしませんか? せめてこの中からあと5曲は聴きたかったが、そうなるとツアーのコンセプトが崩れるわけで、魅せ方とは難しいものだ。
 まあいい。僕のお気に入りの、隠れた名曲「Alexander The Great」が聴けたのだから、許す。本編最後の「Fear Of The Dark」〜「Iron Maiden」の流れは天にも昇る気持ちだったし、アンコールの「The Trooper」のイントロが鳴った瞬間、何mlかおもらししたことをここに告白する。だって、楽しかったから……。

 今回はどれか1曲選べと言われれば、断然「Fear Of The Dark」である。鬱蒼としたバックドロップを背景にブルース・ディッキンソンが神秘的な語り部のごとく歩を進める。オオオ、オオオオォ、オオオオオオォ……。歌詞のない部分の旋律を最初から最後までオーディエンスが合唱するのだから、その美しさたるや。サッカーでいうところのチャントを超えた一体感。「鳥肌が立つ」という言葉はこういう時のためにあるのだなと感じ入った次第である。
 トータルの演奏時間はピッタリ2時間。あっという間にもほどがある、濃密な時空だった。僕は「みんなで歌おう!」とか「心を一つにして!」みたいな、“やらされてる感”がたいそう苦手なのだが、そんな押し付けがましさは一切なく、観客が自然と一体化してのシンガロングには心が震えた。自分が泣いているのか笑っているのかわからない悦び。こんなライヴを海外のフェスで観たら、人生観が変わるだろうな。
 IRON MAIDENという存在がハード・ロックヘヴィ・メタルの完成形のひとつであることは間違いない。それに加えて、この神がかり的な引力は何なのだろう。彼らが創り出す壮大な光景は、ポップス、演歌、ジャズ、ヒップホップ……どんな音楽が好きな人にとっても心踊るものだと確信した。つまり、IRON MAIDENのライヴは“人間の祭典”なのだ。
 ところで、メイデンにはコンパクトな必殺曲が無数にあるものの、長尺で、複雑な展開を有する曲が多い。つまり「あなた、プログレをこじらせたでしょう?」と問いたくなるような、一筋縄ではいかない楽曲が頻出するのだ。ぶっちゃけ、そこまで思い入れがない曲だと、一瞬(ほんの一瞬です!)ボーッと突っ立ってしまいそうになる。だが、そこは天下のIRON MAIDEN、視覚的な演出をふんだんに使って、オーディエンスを笑顔へと導くのだ。ホント、これだけ変な曲が多いバンドがここまでのポピュラリティを獲得している事実に驚きである。やはり、インパクト絶大のグッズの効果が大きいのだろうか。

 終演後は、出口で友人との久々の再会を喜び、ともにグッズ売場へ。あらためてTシャツを見てみるが、うーん、今回は要らないなぁ(家にメタルTシャツいっぱいあるし、高いし……)。でも、今夜のライヴは凄かったから、記念に何か買わないと、きっと後悔する。そんなわけで、タオル2,500円也を買った。洗濯の色落ちが凄そうだから、家族にはブーブー言われるだろう。でも、これでいいのだ。フューチャー・パストなんだから(←自分で言っておきながら意味不明)。
 その後は野毛でもつ焼きをつつきながら、メガジョッキを2杯飲んだ。何年ぶりだろう、こういうの。これこそが人生で最重要のひと時である。友と話が弾んだのは言うまでもなく、途中から何故かBON JOVIの話がメインになっていた。そうです、誰しもがLivin' On A Prayerですよ……。帰り道でガールズバーの客引きの子に「お店来なくていいんで、教えてください! さっきから、その(変なダサい)Tシャツ着てる人いっぱい通るけど、なんのイベントですか?」と質問されたのは良い思い出。「お店来なくていい」っていうのが、いいよな。メタルです。アイアン・メイデンです。
 いま、自宅で首にメイデン・タオルを巻き付けながら、IRON MAIDENのプレイリストを聴いている。2週間前に観たライヴをここまで反芻するのは、僕には珍しい出来事だ。次のワールド・ツアーでの来日を心待ちにしている。必ず観に行くのだ。もちろん、グッズ売り場で悩み、友人らと打ち上げするところまでがセット。一度でいいから、生の「Aces High」を観てみたいのだが、叶わぬ夢なんだろうか。

 とまあ、思い付いたことをつらつら書いていたら、こんな長さになってしまった。ちゃんとしたライヴレポは他の方のものをお読みくださいね。