志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

IRON MAIDEN@ぴあアリーナMMで過去と未来に飛ばされる(前編)

 2024年9月28日(土)、横浜のぴあアリーナMMでIRON MAIDEN(アイアン・メイデン)を観た。まさかこうしてブログに書き残したいほどの心境に至るとは。それくらい胸がすく思いのライヴだったのだ。昨今、特に洋楽アーティスト周りはチケット代やグッズ代が異常なまでに高騰している。これがコロナ禍のせいなのか、紛争の影響なのかはわからんが、なんだかドサクサにまぎれてエラいことになっとるなというのが本音だ。それに加えて、ここ5年ほどの家庭の事情に抜き差しならぬものがあったため、僕の顔面は常に蒼白である。エディ(メイデンの重要かつ著名なマスコット)も真っ青!
 それはさておき、来日公演開催が報じられると同時に、僕はカレンダーにぐりぐりと丸をつけ、クリエイティブマンの会員先行でチケットを押さえた。アリーナ指定席18,000円也。さすがに、最前エリアが約束される、アリーナ前方スタンディング30,000円也には手を出せなかった。クリマンの先行だから、まさか抽選に外れることはないだろう、あわよくばそこそこの良席で観られるだろう。複数の公演日が発表されているが、ここはひとつ、1本に絞ろう。正直、ある程度見晴らしがよければいい、くらいの気持ちだったのだが、当日座席についてみたら驚いた。前方にスタンディング・ブロックはあるものの、アリーナ指定席の前から4列目、しかもど真ん中のゾーンだ。ライヴハウスの後方でステージ全体を味わうような眺め。わがメイデン観測史上最前列での観賞となった。ああ、僕はメタルの神様から祝福されている。

 僕がメイデンのライヴを初めて観に行けたのは、2006年のアルバム『A MATTER OF LIFE AND DEATH』リリース時の武道館公演だ。26歳のときだから、”遂に拝むことができたメタル界の大物”といった喜びがあった。だが、この時のライヴの趣向が難アリで、コンセプチュアルな最新作を冒頭から収録曲順に完全再現するという試みだったのだ。その結果、誰もが喰らいつくような有名曲は本編の最後とアンコールにチョロチョロっという感じで、だいぶモヤモヤした。僕がメイデンに求めるものは”景気の良さ”だった。やはり、これだけの歴史を持っているバンドだもの、ライヴ初体験者としては、グレイテスト・ヒッツ的な構成を期待するじゃないですか。それが、なかった。
 2度目のメイデン体験は、そこから10年の時を経た2016年の両国国技館2DAYSだ。両日チケットを購入し、枡席というレアかつ窮屈な位置にて観覧。当時の最新作『THE BOOK OF SOULS』に伴うツアーで、中南米の古代遺跡を思わせるような舞台美術にも気合いが入っていた。要するに、インディ・ジョーンズの世界だ。当日は場外に「アイアン・メイデン」と大書された幟が立つなど、プロモーションもご立派。ちなみに、日本限定の通称・相撲Tシャツ(どんな角度から見ても珍妙なデザイン)は購入せず、エディが心臓を鷲づかみにしてるやつと名盤『THE NUMBER OF THE BEAST』(1982)のジャケのやつ2点をお買い上げ。「Tシャツ1枚5,000円時代に突入してしまった……」と友人たちとともに嘆いたのが昨日のことのようだ。肝心のライヴはといえば、『THE BOOK OF SOULS』(2015)を主軸に、ところどころ必殺曲を散りばめるという趣向でナイスだったが、両日同じセトリだったのには首を傾げた。更には、ラストを締めくくる曲が「Wasted Years」という、「良い曲なんだけど、もっと良い曲あるでしょう!?」とツッコミたくなる、通好みの選曲だったのにも苦笑い(今なら価値がわかるけれども)。

 前置きが長くなったが、僕には、「生きているうちに会心の(セットリストの)アイアン・メイデンを観てみたい」という欲求がある。〈THE FUTURE PAST WORLD TOUR 2024〉と銘打たれた今回のツアー・コンセプトであれば、自分の好きな曲を多めにやってくれるのではないか。演出面でも「これぞメイデン!」という期待が持てるのではないか。震える手でチケット代をファミマのレジに捧げたのには、こんな理由があったのだ。
 さて、今回初めて足を踏み入れたぴあアリーナMMは、特に可もなく不可もなくという雰囲気。みなとみらい地区、横浜美術館の裏手という立地もまあまあで、会場周辺の娯楽には事欠かない。コロナ禍真っ只中で開業したため、当然清潔感はある。音響的にも文句はなかった。ただし、入場時の動線はもっと工夫すべきだろう。開場直前は、狭い入口付近に人が溜まってしまう構造なのだ。メイデンのように海外からのファンも多数来場するライヴでは、道案内の看板にもせめて英語やイラストによる表記をと願う。国際都市横浜よ、しっかりしてくれ。
 開場30分前には現地に着いていた。物販リストが公開された日から、Tシャツ8,000円也の事実にひっくり返り、グッズ購入からの撤退を宣言……したつもりだったのだが、時間に余裕があると、人間はウロウロしたがるもの。当日のチケットを持っていないとグッズ購入列に並べないという絶妙な制度のおかげで、10分ほど待ったぐらいでお会計列に突撃できた。若い頃ならまだしも、物販列に早朝から並んだり、数時間も突っ立ってるのは無駄な時間としか言いようがない。ストレスフリー、万歳。結局、この時はグッズ実物のドギツい発色を眺めてニヤけるのみで、何も買わなかった。この時間帯も終演後も在庫が豊富だったのは、さすがだ。メイデンともなると、熱心なファンが多いため、人気デザイン(今回だと通称・板前Tシャツ)は早々に売り切れると踏んでいた。だが、買い物も一大イベントであることを運営側がしっかり理解している。そして、あらゆるコントロールが巧みである。すべてのアーティストがこんなふうに切り盛りできるとは思えないが、世界トップ・レベルの物販の姿勢を真似る価値はあるのでは?

 僕の座席の周りが和やかな人ばかりだったのもよかった。海外からのお客様もけっこう多いが、ウェイウェイ奇声をあげながら無礼講をやらかす(ストーンズとかのライヴで見かける)ような輩もおらず、皆、行儀が良い点に安心した。見た目はいかついが、ライヴ時以外は大人しいのだ、本当に。開演が迫っていることを知らせる、定番のUFO「Doctor Doctor」が大音量で流れると、観客はほぼご起立状態。この数分間の焦らしが非常に効果的なんですな。久しぶりの特大規模のライヴがまもなく始まるということで、僕はすでに涙目になっていた。暗転して、メンバーがドーンとステージに飛び出してからの数秒間は、記憶がないくらいに興奮した。

~後編へ続く