志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

2022年にGUNS N' ROSESを観る【第1回】

 あの日から3週間が経とうとしている。放心状態のまま生活に追われていた。時の経つのは残酷だ。さて、何から書き始めようかと考える。
 11/5(土)と6(日)の2日間、GUNS N' ROSESのさいたまスーパーアリーナ公演を観た。かねてより公言しているが、僕が最も愛するバンド、ロックに目覚めるきっかけとなった罪深い人たちである。2002年のサマソニでアクセル(この世に本当に存在するんだ!)を初目撃して以来、来日公演には欠かさず出かけている。前回の来日は2017年1月。オリジナル・メンバーのスラッシュとダフが帰還し……などといった、どこでも読める野暮な情報をここに書いても仕方がないので割愛。大阪、神戸、横浜、さいたまの全5公演に出かけ、行く先々で「ご当地Tシャツ」を買い込むなど、かなり興奮した状態でライヴに臨んだことも記憶に新しい。各会場で目にした光景、出会った友人たちとの交流なども実に美しい思い出だ。
 そして2022年11月である。調べてみたら、僕がライヴというものを観に出かけるのは昨年夏の清春の渋谷さくらホール公演以来、1年4カ月ぶり。来日公演に至っては、2020年1月末のQUEEN + ADAM LAMBERT(フィリップ・アンセルモもこの時期か)以来2年10カ月ぶりなのだから、あまりにも久々、大変ご無沙汰しておりますという心境だ。こんなボンクラな僕でも、コロナ前はいち音楽ファンらしく旺盛に活動していたと思う。それがこの3年で……ああ……。年間120本観に行っていたライヴがゼロに等しくなったのだ。家庭の事情など、コロナ下でのさまざまな理由があったにせよ、この数字はむごい。今回よーくわかったのは、ライヴの場を体感することによって、僕がいかに日頃のストレスを発散させ、未来に向かって気分を切り替えていたかという事実だ。音楽には不思議な力がある。
 まあ、自分のことはさておき、今回のガンズは素晴らしかったですよ。毎回「すごくよかった!」とか「言葉にできない!」とかいった感想を述べていた気がするが、2022年の喜びは今まで味わったものとは別次元。もちろん、コロナ下で溜まったどす黒い感情を吹き飛ばしてくれたということもあるが、それ以上に感服したのは、今のGUNS N' ROSESの状態が素敵なものであること。さらに言えば、毎晩、名演を生み出す準備が整っていることだ。従来のガンズには、その姿を拝めただけで満足、定刻に開演されればホッと安心という要素に目が行きがちだった。だが、いま注目すべきはライヴという場における「真の意味で、新旧織り混ぜた」楽曲たちのクオリティの高さだろう。バンドの歴史の中でも心身ともに健全な状態で放たれる音と声には、圧倒的な説得力が備わっている。円熟味などという言葉を気軽に彼らに対して使いたくはないが、従来の来日公演には見られなかった類いの深み。スラッシュのトーンは香り高く、ダフの立ち居振舞いは精悍、そして何よりアクセルの声はパーフェクト・クライムだ(やってほしかったなぁ、「Perfect Crime」)。
 久しぶりに覚悟を決めて臨んだライヴだったので、1曲目から落涙モードになっちゃうんじゃないかと思ったが、そこは意外にも冷静な自分がいて、「おれ、なかなかやるやん!」と自信を深めたことである。それはともかく、過度に興奮することなく第1夜のガンズに臨めたのは、オープニング・アクトLOUDNESSの刺激的な演奏のおかげだ。国内外で場数を踏んできた彼らだからこそ成し得た魅せ方だったと思う。あの爆音、特に高崎晃のギターの一閃によって、僕は完全に目が覚めた。背中を押してくれる音楽がこの世にはあると確信した瞬間だった。
 定刻から(たったの!)20分ほどが過ぎた頃、場内が暗転し、極上の時間が始まった(こういう言い回しで文章を書くのも久しぶりですね!)。このツアーはアジア・パシフィック・ツアーの幕開けという位置付け。中南米各国で9月から10月にかけて行われていたツアーのセットリストは一切見ていない。いや、嘘だ。ネットで検索したセトリを薄目で見るぐらいのことはしていた僕だが、1曲ごとに「おっ、そう来たか!」と頷いたり、フンフン揺れたりしながら、今自分がここに居ることの意味を確かめていた。やっぱりアペタイトの曲は根強い人気なんだなぁなどと場内の反応を興味深く見守っていたら、どこかで聞き覚えのあるリフが鳴った。「Slither」だ。そりゃ思わず前のめりにもなりますわ。VELVET REVOLVERというバンドの奇跡的なカッコよさについては稿を改めたいところだが、この曲をアクセルが歌っているのだから胸いっぱいである。「生きていれば、いろんなことが起こるのぅ」と妙に感慨深くなったりするうちに、悦ばしい時間は経過していくのだった。ライヴって、始まった途端に終わりに向かっているのだ。なんと儚いロマン。
 僕には、感銘を受けた公演のセットリストを帰宅直後にノートに書き付ける性癖があって、この2日間も然るべき儀式を執り行った。そのノートを読み返してみると、第1夜で〇が付いた曲は「Chinese Democracy」「Double Talkin' Jive」「Reckless Life」「Shadow Of Your Love」「Hard Skool」「November Rain」「Nightrain」「Coma」。これらの更に上、☆の評価がついたのは「Slither」「Live And Let Die」「Sweet Child O' Mine」「Paradise City」で、「You Could Be Mine」「Civil War」「Patience」に至っては、よほど嬉しかったのか、☆が2つもついている(ちなみに、☆が3つつくことは非常に稀。この点、僕のジャッジは厳しい!)。
 1曲目の「It's So Easy」にはやや手さぐり感があったが、歌えば歌うほど、奏でれば奏でるほどに僕の望むガンズの姿になっていった点はさすが。どう考えても、この2日間のアクセルの声の調子はずば抜けていた。楽曲単位でいえば、ウクライナのことを前面に出した「Civil War」が最大のハイライトだと誰もが認めることだろう。だが、僕が第1夜で最も感激したのは、アンコールで披露された「Patience」なのである。もともと大好きな曲ではあるのだけれど、ここ数年の自分の「耐え忍び」を思い出し、ウゥゥとその場にしゃがみ込みそうになるほどやられてしまった。しかも、スラッシュ、ダフ、リチャードの弦楽器隊によるビートルズ「Blackbird」のアコースティック・インストを導入部に据えての「Patience」。こんなの、至高以外の何物でもない。ラストの「Paradise City」では紙吹雪の演出こそなかったものの、僕には見えた、極楽の紙吹雪が。
 というわけで、第1夜のことをサラッと書いただけで、結構な分量になってしまった。第2夜およびこの2日間にまつわる小噺は次回以降に……。