志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

2022年にGUNS N' ROSESを観る【第3回】

 えっ、もう年の瀬ですって……。ガンズの来日公演から1カ月以上が経ち、BURRN!、ヘドバン、rockin' on、MASSIVEなど、ライヴレポや観戦記が綴られた媒体が出揃った。自分が観に行ったライヴがどのように語られているのかを知るのは非常に楽しいもの。いずれの記事も非常に興味深く、同じ公演を観ていても、解釈は人それぞれなのだなと感心してしまう。これはもう、完全に僕の好みの問題なのだが、取材対象に対する愛が溢れんばかりになっていて思わずニヤリとしてしまうような記事が読みたいのだ。共感の度合いを深めたい。言葉を尽くした形跡のある文章に触れたい。何が言いたいかって、アクセルの容姿や声を揶揄し、それを落としどころにするようなレポにはこれからも厳しい目を向けていきたいということですね。何年も前から思っていることだけれども、ポイントはそこじゃないから。今回はヘドバンの川崎りょうさんのレポと『USE YOUR ILLUSION』ボックス・セット解説の新鮮な視点を楽しんだ。とてもじゃないが、僕にはこんな豊富な情報量の文章は書けない。年齢が近く、ぶれない視点を持った書き手の活躍は心強く、うれしいものです。
 各種記事から刺激を受け、第3回は何を書くべきか。そういえば、あの2日間にまつわるこぼれ話的なことを語っていなかった。こぼれるような話もないくらいに、僕の心身はまっすぐコンサートそのものに向かっていたのだが、いろいろ思い出してみよう。
 チケットはガンズの公式ファンクラブNIGHTRAINにて購入。年々会員特典がしょぼくなっているので、そろそろ退会しようかなと考えていたが、踏みとどまったおれは偉い。このFC、日本時間の深夜(かつ変な時間)に重要な告知を繰り出してくる傾向があり、心臓に悪いのだ。「果たして、チケット販売開始時間に自分は身動きがとれるのか、ここで買えなかったらすべてを諦めよう、それも神様の采配だ」などと訳のわからぬことを考え出す始末。まあ、そんな心配も杞憂に終わり、販売開始とほぼ同時にPC前に着席できたのだが、問題は席種である。ネット上でチケットを買うという行為もほぼ3年ぶりのため、大袈裟なくらい「チケ発」に緊張している自分がいる。指先が震える。ついでに脳味噌も震える。ここは一発、奮発してGOLD指定席35,000円也の購入を! とも考えたが、分相応ってものがある。悩みに悩んだ挙げ句、両日、SS席19,000円也を買い求めたのだった。
 僕はどんなに好きなアーティストであっても、最前列に近い位置でガッツリと観ることが苦手なのである。ステージとある程度の距離を保って事の成り行きを見守るというほうが性に合っているのだ。まるで強がりを言っているみたいだが、実際にそうなのだから仕方がない。おそらく、ガンズを手が届くくらいの距離で観てしまった暁には、メデューサに睨まれた者のごとく、石と化してしまうことだろう(あっ、でも、一回ぐらいは最前列で観てみたいのぅ)。結果として、この2日間は、GOLD指定席のブロックのすぐ後ろ、アリーナど真ん中の前方というナイスな位置で観覧。こういう恩恵があるから、ファンクラブというものを軽視できない。
 35,000-19,000=16,000。2日間で32,000円が浮く。これをグッズ資金に回せば……などと考え出すのも人の性。僕も当初はグッズを買う気まんまんだったのですよ、物販リストを見るまでは。人それぞれに好みがあるから、滅多なことは言えないが、そのリストの中に僕の求める物品は見当たらなかった。ライヴ通いを続けて四半世紀、こんなことはレアケース中のレアケースである。強いて言うなら、潰しが効きそうなデザインのロンTぐらい? 九谷焼の豆皿セット……要らないなぁ。これはガンズに限らず、海外アーティストのグッズにありがちなのだが、米西海岸の日本料理屋風の趣向(フォントとか)が前面に出されると、途端に萎える僕がいる。「うぉぉ、これは欲しいッ!」とその場で身悶えしちゃうような意匠のものがあれば、2022年の良い記念になったのになぁ。その点、前回の来日公演の物販ラインナップは結構いい線いってたと思う。あれを基準にしたい(断言)。
 公演当日、開場時間近くにさいたま新都心駅に降り立った僕は、スーパーアリーナ方面へしばらく歩いたところで「あっ……」と状況を察する声を出してしまった。右手に見えますのは、万里の長城よろしく、遥か彼方までとぐろを巻いたグッズ販売待機列。あの光景で爽やかに諦めがついた。開演まで体力も温存できたし、何よりライヴそのものに集中できたのがよかった。さらには、NIGHTRAINのパスポート(会員証のようなもの)に貼るシールの受け取りを忘れなかったのは偉かった。物販出口の誘導係のお兄さんに声をかけてシールをもらうという方式(お兄さん、明らかに迷惑そう)は謎だったが、印象深い思い出ではある。
 2日目の終演後、友人と待ち合わせて久々の再会を喜び、途中まで一緒に帰ったのも良い思い出。というか、コロナ禍以前はこんなこと、日常 of 日常だっただけに、感慨深くなる。「友人とライヴの感想を語り合う。そして、新譜の情報などを共有する」というささやかな行動ひとつに感動しきりの僕であった(その節はあまり饒舌でなくて、すみません)。
 夢まぼろしのような11月5日と6日の2日間の後、僕は長い時間をかけて、『USE YOUR ILLUSION』のリマスター盤(2枚組のデラックス・エディション×2作)を聴いた。1日に2,3曲ぐらいのペースで。すると、どうだろう。今回のライヴを経て、この名盤の聴き方に大きな変化が生じたのだった。『II』に収録の「14 Years」や「So Fine」といった、ティーンエイジャーの頃には「飛ばしていた曲」に妙に愛着が湧いてきたのである。どちらかと言えば、僕は『I』を愛好する者であり、『II』を好む人にはひそかな対抗意識(?)を燃やしていたりもした。たしかに、『II』のほうがアルバムとしてのまとまりが良さそうだし、通好みの名曲が揃っている気がしなくもない。ジャケットの配色だってカッコいい。『II』の青と紫を基調としたデザインは、湾岸戦争当時の気だるい空気をまとっていて、大人だ。その一方、『I』の赤と黄は攻撃的でやんちゃな小僧といった趣である。僕は『USE YOUR ILLUSION』という作品全体のことをわかっていなかった。今もきっとわかっていない。今後もわからないかもしれない。でも、そこが底知れぬ魅力なのだと思う。秘蔵ライヴ音源も聴ける今回のリリースは、思いがけない喜びをもたらしてくれている。
 他でもない、この2022年にGUNS N' ROSESを観たことは、僕の今後の生きざまにも関わってくる。第3回はだいぶまとまりのない文章になってしまったと反省。もうこれ以上、書くネタはないだろうから、この辺で一旦締めさせていただこう。それにしても、ガンズの皆さんは日本がお好きですね! 好きじゃないと、こんなに頻繁に訪れないでしょう。次はB!誌のクロス・レビューで平均点95以上の新譜を引っ提げて来日していただきたい。最前列で観るから。