志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

2023年

 あけましておめでとうございます! 

 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

というご挨拶はいつ頃まで有効なのだろうか。2023年の幕開けはまったく曜日感覚がわからない感じで進行中。僕の住む地域はずっとカラッと晴れているのがありがたいことです。

 これといった目標を立てることもなく1月上旬が終わろうとしているのだが、今年はあまり気合いを入れ過ぎずに、少しずつ前に進むことを心がけたいと思う。自分は意外とコツコツタイプだということにここ数年で気付いたので、その長所を活かしながら、己の仕事を究めてゆきたいです。そもそも、元気に暮らせていること自体が奇跡のようなもの。これまでの出会いに感謝し、これからの出会いに胸をときめかせる青年でありたい。

 4月には43歳になる。後厄も抜けて万々歳。青年どころか、正々堂々と、おっさんである。ここに来て、年老いる絶望よりも、年齢を重ねる楽しみみたいなものがわかりかけてきた。そう、まだ何も始まっちゃいないのだ。すべてがコロナ禍以前のように戻るとは思えないが、ある程度の勘を取り戻したうえで、従来になかった新スキルを発動させるのは可能とみた。ようやく、勉強というものが快楽になってきました。

 まあ、そんなこんなで、この決意表明のようなものも今月末にはすっかり忘れて通常運転になると思う。魑魅魍魎にからめとられずに、まっとうに生活しますよ、2023年。

 音楽を観たり聴いたりするセンスはちょっと鈍っているかもしれないが、読書の習慣は徐々に回復傾向。この年末年始に読んで感銘を受けた3冊を紹介したい。

①並木浩一・奥泉光旧約聖書がわかる本 〈対話〉でひもとくその世界』(河出新書

伊東潤・空木春宵・大槻ケンヂ長嶋有・和嶋慎治『夜の夢こそまこと 人間椅子小説集』(KADOKAWA

枡野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社)

 ①は新書という体裁でありながら、質・量ともにおそろしく濃厚な対話の記録。並木先生は僕の卒業論文および修士論文の指導教官、奥泉さんは大学および大学院の直系の大先輩なのである。それがどうした、という声も聞こえてきそうだが、このお二人がこういう”手に取りやすい形”で入門書を出されたことには大変な意義があるんですよ! もう、なんか、笑っちゃうぐらいに鮮やかな知性の応酬。(良い意味で)ICUの雰囲気に触れられる1冊となっております。特に「第四部 ヨブ記を読む」の読解には勇気を頂いた。スリリングな知に飢えている向きには必ずお読みいただきたい。

 ②は「万が一、面白くなかったら、どうしよう……」と思い詰めて、紹介が遅れに遅れてしまった作品集。水面下でこんなプロジェクトが進行していただなんて、まったく聞いてないですよ。それはともかく、もう、あのね! ハード・ロック・バンド人間椅子の楽曲から着想を得て、一個の小説を書きあげるという行為自体がどえらいことだと思うのです。どの作品も、人間椅子のことを知らない人が読んでも面白い仕上がりになっている。そして、各短篇に通底するのは青春の温かさだと僕は思った。この小説化の過程こそが現代日本文学と言える。

 ③は紙の本が大好きな人にぜひ手に入れてほしい本。1頁に1首という潔さが心地よいのです。ツイッターでも書いたけれど、「全」短歌集という点にじわじわと感動をおぼえた。2012年頃から短歌を作り始めた僕は、現在の「短歌ブーム」なるものに懐疑的なのだが、このタイミングで枡野さんの決定打が世に出たことが実に痛快。小沢健二の帯文といい、「特別栞 俵万智枡野浩一の往復書簡」といい、文章が巧い人の文章を読める幸せ。すでに、座右の書です。枡野さんは阿佐ヶ谷時代(すなわち30代)の僕に大きな影響を与えた1人なのだが、その話はいつか彼方で。 

 結果的に、日頃から非常に関わりの深い方々の本ばかり紹介してしまったが、新年だもの、これぐらい景気が良くなくっちゃ。5月の文筆家デビュー10周年に向けて、毎日少しずつでも書き、発信することをここに誓います。楽しく! 健やかに!