志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

文筆家・志村つくねの公式ブログ。本・音楽・映画を中心に。なるべくソリッドに。

阪神タイガース38年ぶり日本一に想う

 口に出すと実現しなくなると思って黙っていたのだが、とうとう阪神タイガースが日本一になってしまった。誠におめでたい。関西に住んでいたら、もっと現実味があったんだろうな。そう、あまりの出来事に、まだちょっと信じられないでいる。

 僕と阪神の関わりについては、リーグ優勝時に書いたこの記事

僕と阪神タイガース - 志村つくねの父さん母さんリヴァイアサン

を参考にしていただこう。あれからCSをうまいこと勝ち上がり、オリックスとのシビれる日本シリーズを戦い抜いてくれたことに感激である。肝心なところで負けるのが阪神の常だと思っていたので、夢のようだ。いや、まだ夢の中にいるのかもしれない。

 38年ぶり、2度目の日本一なのだという。すっごい古くからある球団なのに、それだけしか頂点に立ってないんかい! と驚くばかりだが、ここがミソなんだろうな。前回の優勝時、僕は5歳だった。自宅で紙吹雪を放り上げるその瞬間の写真を父が数点送ってくれたのだが、まあ、なんてかわいいの。無邪気というか、何もわかっていない顔をしている。阪神帽を被って、めでたく笑っている。そこから38年も試練の道が続くことを知らずに。当然、父も母も若かったわけで、なんだか幸せそうだ。いや、幸せそのものだ。こういう目に見える記録が残っているのって、いいなあと素直に思える。

 バース、掛布、岡田のバックスクリーン三連発という伝説をまるでその場で観てきたかのように語る人がいる。僕も油断するとその傾向があったので、東京に住んでからは特に周囲の気配に注意しながら野球のことを喋るようになったものだ。べつに浮気したわけではないのだが、地理的状況とチームカラーの関係で、2000年以降はベイスターズとライオンズを応援することが増えた。帰省のたびに、阪神戦の中継を命の支えとしている祖父や父の気迫に圧倒されていた。「カンカンのトラキチは違う」と自分の中途半端さを呪いもした。

 小中高と阪神ファンを公言していたが、今では考えられないほど肩身は狭かったのだ。実は大阪にはけっこうな数の巨人ファンがいて、中小企業の幹部クラスにそういう人は多い。そして、僕の中高には「中小企業の幹部クラスの息子」がウヨウヨいて、90年代、暗黒時代真っ只中の阪神のことを悪く言うやつが非常に多かった。お金でなんでも解決するタイプが嫌いなのは、ここに端を発していると思う。東京に来てからは、巨人ファンにも良い人はいるし、巨人の選手にも惚れ惚れするようなセンスの持ち主もいると考えを改めるのだが、それはまた別の話。

 2000年代に入り、タイガースは何度か日本一を掴むチャンスがあったけれども、その度に失敗した。そして、その都度増殖する「強い時だけ阪神ファン」みたいな人たちにウンザリしてしまった。たまに神宮で阪神戦を観たりもしたが、僕の知る牧歌的な風景はとうに消えていて、ちょっと応援が下品だなとさえ思った。都会的で洗練された阪神が好きだったのに、どうにも居心地が悪くなったのだ。

 まあ、その後もいろいろあった(←端折り過ぎ)わけだが、2023年ですよ。選手時代に大ファンだった岡田監督が、きわめてまっとうな采配(それが一番難しい)で天下を獲ったことが痛快だ。僕は奇策や迷采配に厳しい性格なので、現有戦力の良さを最大限に活かす今シーズンの戦い方に感動した。そして、安藤、久保田、今岡、藤本など、現役時代に心を込めて応援していた選手がコーチとして活躍する姿にもグッときた。元気に生きていれば、美しく楽しい場面に出会える。腐っちゃダメなのだということを阪神タイガースは身をもって示してくれた。

 ところで、僕は日本一の瞬間をリアルタイムで体験することは叶わなかった。自室でTVer中継を観ていたのだが、岩崎がマウンドに向かい、あと1人! という完璧なタイミングで「家族のやむを得ぬ事情」に呼ばれてしまったのだ。「泣きたいのはこっちだよ!」という気持ちだったのだけれども、まあ、いろいろありますよね。生活って、いろいろあるんだわ。

 その後は気を取り直し、公式ダイジェスト動画などで優勝の雰囲気を味わった。うーん、実感があるような、ないような。来年以降も、締まった野球で魅せてくれたら最高だな。「しまった!」と頭を抱えるような野球とは無縁でありますように。

 連覇してくれれば、そりゃ感無量だが、次は38年もかからないで日本一になってほしい。「今回の優勝を支えたのは、あんたらぐらいの世代やな。物心ついた頃に、親の影響で阪神ファンになったような子らが甲子園で岡田コールしてるわ」と電話口の母はしみじみと語った。この分析はちょっと当たっているかもしれない。親から子へ、子から孫へ。なんか、日本のプロ野球っていいなあと心の底から思ったことである。